
船舶のデジタル化が進むにつれて、ブリッジや機関室の機器を単にEthernetで接続するだけでなく、「どのネットワークを接続するか」「どのデータを通すか」「船外とはどこで接続するか」「アプリケーションをどこで動かすか」という設計が重要になっています。
Robustelが展開する「MG460」ファミリーは、そうした船舶ネットワークを用途別の機器で構築できる製品群です。
今回取り上げるのは、次の4モデルです。
- MG460 Gateway
- MG460 Forwarder
- MG460 Switch
- MG460 Computer
名前だけを見ると少し違いが分かりにくいのですが、実際にはそれぞれの役割がかなり明確です。
ざっくり言えば、
Gateway:船と陸を安全につなぐ
Forwarder:船内の異なるネットワークを安全につなぐ
Switch:船内機器をネットワークにつなぐ
Computer:船内でアプリケーションを動かす
という関係です。
まずは4製品の違いを一覧で

各製品の位置付けはメーカー公式ページの記載に基づきます。
1.MG460 Gateway:船と陸をつなぐ「セキュリティゲート」

MG460 Gatewayの役割を一言で表すなら、船内ネットワークと船外ネットワークの境界を守るゲートウェイです。
IEC 61162-460環境を想定したMarine Cyber Security Gatewayで、「460-Gateway」「460-Wireless Gateway」の両方についてDNV Type Approvalを取得した製品です。IEC 61162-460 Edition 3に加え、IACS UR E26/E27を意識した設計になっています。
大きな特長は、単にインターネットへ接続するルーターではないことです。
インターフェースごとのFirewall、DMZ、VPNなどを使い、重要な船内システムを直接外部へ露出させることなく、必要なデータを船外とやり取りする構成を想定しています。
主なハードウェア
- 5× Gigabit Ethernet
- Dual SIM
- 5G / 4G LTE / 3G / 2G
- 2× RS-232/422/485
- 2× DI
- 2× Relay Output
- USB 3.0 ×2
- USB 2.0 Type-C ×1
- HDMI 2.0
- MicroSD
- Wi-Fi(オプション)
- GPS(オプション)
CPUはQuad-core Cortex-A53 1.6GHz、RAM 4GB、ストレージは64GB eMMCで、2.3 TOPSのNPUも搭載しています。
どんな場面で使う?
メーカーが想定しているのは、
- VDRや航海関連データを陸上へ送る
- ECDISチャートや署名済みFirmwareを船へ配信する
- IMO DCS/CII関連データを船内で収集し、船外へ送る
といった用途です。
つまり、
「船外との通信が発生するポイント」
に置く製品、と考えると分かりやすいでしょう。
2.MG460 Forwarder:船内ネットワークを安全に「橋渡し」

一方、MG460 Forwarderの主戦場は船の中です。
DNV認証の「460-Forwarder」として、IEC 61162-460ネットワークとIASなど、船内に存在する別の制御されたネットワークとのデータ交換を想定しています。
ポイントとなるのが、
- VLANによるセグメンテーション
- ポート単位のFirewall
- Traffic Priority Management
- IGMP Proxy
です。
たとえば航海ネットワークとIASを完全に一体化してしまうのではなく、ネットワークの分離を維持しながら、許可したデータを必要な場所へ届けるという考え方です。
Gatewayとの違いが重要
ここは4製品を理解するうえで特に重要です。
MG460 Gateway
船内
↓
Gateway
↓
船外・陸上
MG460 Forwarder
船内Network A
↓
Forwarder
↓
船内Network B
というイメージになります。
メーカーも、ForwarderとGatewayを組み合わせ、船内のドメインを分離したうえで、承認したデータをGateway経由で陸上へ送る構成を紹介しています。
代表的な用途
たとえば、
Bridge Network ↔ IAS
間で、Engine RPMやTank Levelなど承認された情報のみを共有するといった構成が紹介されています。
また、GNSS、Gyro、AISなどIEC 61162-460 MulticastデータをECDIS、Conning、VDRなどへ配信する用途も紹介されています。
3.MG460 Switch:船内ネットワークの「接続基盤」

GatewayとForwarderがセキュリティやネットワーク間接続を担うのに対して、MG460 SwitchはLayer 2+のManaged Ethernet Switchです。
インターフェースは、
8× Gigabit RJ45 + 2× SFP
という構成。
さらに、
- VLAN(IEEE 802.1Q)
- QoS
- IGMP Snooping
- STP / RSTP
- MSTP*
- Flow Management
- Bandwidth Control
- Dual Redundant Power Input
などに対応しています。
* メーカーWebページでは一部機能についてfuture software releaseとの注記があります。
最大の特長はポート数
Gateway、Forwarder、Computerはいずれも5ポートのGigabit Ethernetを備えていますが、Switchの場合はGbE RJ45を8ポート、さらにSFPを2スロット搭載しています。
そのため、
- ECDIS
- RADAR
- GPS
- AIS
- Conning Display
- CCTV
- 機関室の制御・監視機器
など、多数のEthernet機器を収容するネットワーク基盤として位置付けやすい製品です。RobustelもBridge Navigation Network、Engine Room Automation、Maritime CCTV & Securityをユースケースとして挙げています。
Switching Capacityは26Gbps(non-blocking, full duplex)、Forwarding Rateは19.34Mpps(wire-speed)です。
4.MG460 Computer:ネットワーク機器ではなく「船載Linuxコンピューター」

4製品の中で立ち位置が大きく異なるのがMG460 Computerです。
これはルーターやスイッチというより、IEC 60945認証の船舶向けIndustrial Computerです。
OSには、
Debian 13(Trixie)
を採用。
APT Package Managementが利用でき、船内向けの独自アプリケーションを実行するプラットフォームとして設計されています。
ハードウェアは、
- Quad-core Cortex-A53 1.6GHz
- RAM 4GB DDR4
- 64GB eMMC
- 2.3 TOPS NPU
- 5× Gigabit Ethernet
- 2× RS-232/422/485
- HDMI 2.0
- USB
- MicroSD
という構成です。
何をする製品なのか?
メーカーが紹介している用途を見ると非常に分かりやすいです。
Data Logger / Onboard CPU
Engine SensorやControllerなどからデータを収集し、保存・処理。Condition MonitoringやVoyage/Event Logging、Local Analyticsなどへの利用が想定されています。
ECDIS / Chart Display
HDMI出力を利用して、航海チャートやBridge Display Softwareを実行するプラットフォームとして使用できます。
DMZ Application Server
DMZ内に、
- File Transfer
- Reporting
- Web Dashboard
- Application API
などのサービスを配置する用途もメーカーは紹介しています。
「GatewayとForwarder」は何が違う?
4製品の中でも特に混同しやすいのがこの2モデルです。
違いをできるだけ単純化すると、
Gateway
船と外部との境界を守る
Forwarder
船内ネットワーク間の境界を守りながらデータを中継する
という違いです。
したがって、どちらか一方を選ぶというより、船舶のネットワークアーキテクチャ次第では役割を分担して組み合わせる製品と考えたほうが理解しやすくなります。
SwitchとForwarderも「同じもの」ではない
もう一つ注意したいのがSwitchとの違いです。
MG460 Switchは多数のEthernet機器を接続し、VLANやQoS、IGMP Snoopingなどを使ってLayer 2+ネットワークを構築する製品です。
対してForwarderは、IEC 61162-460における460-Forwarderという役割を担い、ネットワークを分離しながら異なる船内ネットワーク間でデータを交換することが中心です。
つまり、
Switch=ネットワークそのものを構成する
Forwarder=分離されたネットワーク間を橋渡しする
という整理ができます。
4製品を組み合わせるとどうなる?
MG460シリーズの面白いところは、4製品を単体で見るより、船舶ネットワーク全体の役割分担として見ると製品コンセプトがはっきりすることです。
イメージとしては、

※上図は、各公式ページに記載された製品の役割を分かりやすくするために筆者が単純化した概念図で、特定船舶の認証済み構成を示すものではありません。RobustelはGateway+Forwarderや、MG460ファミリーを組み合わせたIEC 61162-460アーキテクチャを紹介しています。
こうして見ると、それぞれが競合製品ではなく、
Switch → 接続する
Forwarder → 分離しながら中継する
Gateway → 船外との境界を守る
Computer → アプリケーションを実行する
という補完関係になっていることが分かります。
どのMG460を選ぶべき?
最後に、用途から逆引きしてみましょう。
「船から陸上・クラウドへ安全にデータを送りたい」
→ MG460 Gateway
5G/LTE、Dual SIM、Firewall、DMZ、VPNを備えており、船陸間通信のセキュリティ境界を担います。
「BridgeとIASなど、船内の異なるネットワーク間でデータを受け渡したい」
→ MG460 Forwarder
VLAN、ポートFirewall、Traffic Priority、IGMP Proxyなどを利用した船内ネットワーク間のデータ交換を想定しています。
「ECDIS、RADAR、AIS、CCTVなどを多数Ethernet接続したい」
→ MG460 Switch
8×GbEと2×SFPを備えたLayer 2+ Managed Switchが最もストレートな選択肢です。
「船内でLinuxアプリ、データ収集・分析、サーバーを動かしたい」
→ MG460 Computer
Debian 13を搭載したIEC 60945認証Industrial Computerという位置付けです。
まとめ
Robustel MG460ファミリーは、単なる「船舶向けルーターのバリエーション」ではありません。
4製品を整理すると、
MG460 Gateway = Vessel-to-Shore
MG460 Forwarder = Network-to-Network
MG460 Switch = Device-to-Network
MG460 Computer = Application / Computing
という明確な役割分担が見えてきます。これは各製品ページに記載された用途・機能を基にした整理です。
船舶IoTや船内DXでは、「通信機器を導入する」だけでなく、ネットワークをどこで分離し、どこで接続し、どこで処理し、どう陸上へ持ち出すかという全体設計が重要です。
MG460シリーズは、その役割ごとにハードウェアを選択できることが大きな特長と言えるでしょう。