
車両にGPSトラッカーを常時接続して位置情報を取得したい。一方で、予備車や故障車など、数日から数週間動かさない車両のバッテリー消耗はできるだけ抑えたい。
今回は、テルトニカ・テレマティクス製 バッテリー直結型GPSトラッカー(FMM880)を配送用バイクで運用した際に、「長期間停車している車両で外部電圧が低下し、通信が止まる。」という事象が発生したケースをもとに、省電力設定をどのように見直したのかをご紹介します。
※ 以下は今回の利用環境における事例です。車両、バッテリー、配線、通信・GNSS環境などによって結果は異なります。
発生したこと
FMM880を12V・約6Ahのバッテリーを搭載した配送用バイクに常時電源で接続して運用していました。
通常利用している車両では大きな問題はありませんでしたが、故障などによって数日から1週間程度動かさなかった一部の車両で、
- 端末が報告する外部電圧が徐々に低下
- 車両を停めている間も端末がスリープに入らない
- 停車中も定期的にデータを送信
- 最終的には通信が停止
という事象が確認されました。
そこで、「本当に車両のバッテリーが消耗しているのか」「端末の設定に原因があるのか」「配線や電圧検出側の問題なのか」を切り分けながら、設定を見直しました。
ポイント1:スリープ時と通常時では消費電流が大きく違う
12V電源供給時の平均消費電流の参考値は、次のようになっていました。

たとえば通常動作が24時間続いた場合、単純計算では約0.95Ahを消費します。
そのため、容量がそれほど大きくない車両バッテリーに常時接続する場合は、「停車後に端末をきちんとスリープへ移行させる」ことが重要になります。
ただし、実際のバッテリー電圧低下は端末だけで決まるものではありません。バッテリーの充電状態や経年劣化、配線状態、スリープに入るまでの時間なども考慮する必要があります。
ポイント2:GPS信号を取得できない場所ではスリープ条件にも注意
今回もうひとつ重要だったのが、屋根の下などGNSS信号を受信しにくい場所に駐車した場合です。
FMM880の「Records Saving / Sending Without TS」の設定によって、スリープへの移行条件が変わります。
- After Position Fix:時刻同期+GPS Fixが必要
- After Time Sync:NTP、NITZ、GNSSなどによる時刻同期が必要
- Always:GPS Fixや時刻同期がなくてもスリープ移行が可能
今回のように、駐車場所によってGPS信号を捕捉しづらい場合には、Alwaysへ変更することでスリープへ移行しやすくする方法が考えられます。
ただしAlwaysの場合、有効な位置情報や時刻同期がない状態でも記録が生成されるため、座標が「0,0」となるデータが発生する可能性がある点には注意が必要です。
今回採用した設定
検討の結果、実際の端末には以下の設定を反映しました。
- Sleep Mode:Ultra Deep Sleep
- Records Saving/Sending Without TS:Always
- Bluetooth during Sleep:無効
- Open Link Timeout:180秒
- 停車中のSend Period:30秒
- Sleep Timeout:30分
メーカー技術部門から提示されたSleep Timeoutの推奨値は10分でしたが、今回のシステムでは停車直後の位置情報を利用しているため、実運用とのバランスを考えて30分としています。
ここは重要なポイントで、単純に「最も省電力な設定」にすればよいわけではありません。
位置情報をいつまで必要とするかと、省電力化をどこまで優先するかのバランスを取る必要があります。
設定変更後はどうなった?
今回の設定をGPRS経由で各端末へ反映したところ、
停車後のスリープ移行とバッテリー電圧の推移について改善が確認できました。
一方で、Ultra Deep Sleepから復帰したあと、どの程度の時間でGPS測位できるかについては、実際の利用環境で引き続き確認することにしました。
Ultra Deep Sleepでは内蔵加速度センサーによる動きの検知で復帰できますが、GPS測位にかかる時間は受信環境などにも左右されるためです。
「端末の電圧表示=バッテリー電圧」と決めつけない
今回のような事象では、端末から取得したExternal Voltageだけを見て、
バッテリーが上がりかけている
と判断しないことも重要です。
切り分ける場合は、
- バッテリー端子で実際の電圧を測定
- FMM880の電源入力部でも電圧を測定
- 端末から取得したExternal Voltageと比較
- 電源配線や接続状態も確認
という形で比較します。
これによって、実際のバッテリー電圧低下なのか、それとも配線や接続部分などに起因する差なのかを切り分けやすくなります。
数週間使わない車両では「省電力設定だけ」に頼らない
注意したいのが、Ultra Deep Sleepでも消費電流が完全にゼロになるわけではないという点です。
今回のFMM880には、たとえば外部電源が11.5Vを下回ったら自動的に端末を停止する、といった低電圧時の自動停止機能はありません。
そのため、数週間にわたって動かさない可能性のある車両では、
- Ultra Deep Sleepを利用する
- 不要な通信・Bluetoothなどを停止する
- 必要に応じて端末への外部電源そのものを遮断する
- 電圧が一定以下になった際に給電を遮断する外付け装置を検討する
といった、端末設定と車両側の電源設計の両面から考える必要があります。
大量展開する前に小規模で確認する
今回は10台程度での試験運用から、将来的に数百台規模への展開を想定したケースでした。
台数が増えてから設定を変更するより、
少数台で検証 → スリープ移行確認 → 電圧推移確認 → GPS復帰時間確認 → 全台展開
という順序で進めるほうがリスクを抑えられます。
FMM880ではGPRS経由のsetparamによる設定変更も可能なため、フィールドへ展開した後でも遠隔から設定を調整できます。
まとめ:車載GPSトラッカーの省電力化は「スリープ設定」だけではない
今回の事例から特に重要だったポイントをまとめると、次の5つです。
① 停車後、本当にスリープへ移行しているか確認する
Ultra Deep Sleepを設定しただけではなく、その移行条件を満たしているかまで確認します。
② GNSSを受信できない駐車環境も想定する
屋根下などでGPS Fixできないことが、スリープ移行に影響する設定になっていないか確認します。
③ 省電力と位置取得のバランスを取る
Sleep Timeoutを短くすると省電力には有利ですが、停車直後の位置情報など、業務で必要なデータとの兼ね合いがあります。
④ 電圧低下=GPS端末の消費と決めつけない
バッテリー実測値、端末入力部、External Voltageを比較し、配線も含めて切り分けます。
⑤ 長期間動かさない車両では電源遮断も検討する
スリープ中も消費電力はゼロではありません。予備車などでは車両側の電源管理も重要になります。
車両IoTでは、「走行中に正しく位置を取れること」だけでなく、車両が動いていない時間をどう設計するかも重要です。
特に、小容量のバッテリーを搭載した二輪車や、稼働頻度にばらつきのある車両へGPSトラッカーを導入する場合には、展開前にぜひ確認しておきたいポイントだと思います。
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